バーテンダー★5杯目/テネシーワルツ

Bar

【キャスト】
佐々倉溜/相葉雅紀
来島美和/貫地谷しほり
島泰三津川雅彦
杉山 薫/荒川良々
三橋順次/光石研
桜  肇/尾美としのり
桜  寿/西慶子
葛原隆一/金子ノブアキ

ゲスト★諏訪早苗 役・室井滋/諏訪マリ 役・芦名星

ホテル・ラウンジでの取材を終えた編集長と美和。
そこでピアノを弾く女性に美和には見覚えが…。
(傍らでは「全然なってないよ!」と怒って帰ってしまう客がいた)
美和が以前大学生の頃に、学生新聞のインタビューをした事のある先輩(諏訪マリ)だった。編集長は気を利かせて先に帰った。
美和はラパンに彼女を誘う気だ。

その頃ラパンでは――*
溜「随分暇ですね」お客が来ない。
杉「こういう日は気を付けた方がいい」
溜「え?」
杉「このラパンにはジンクスがある。閑古鳥が鳴いた日に招かれざる客が来る・・・本当だぞ、2年前、凄く暇な日に食い逃げ事件が発生した。3年前には指名手配犯が来店して警察沙汰だ、おそらく今日も何か…」
三「ただの偶然ですよ!」
溜「ですよね?」
そこにドアが開く。
三「いらっしゃいま・せ!」と冷静な三橋が声を荒げた。
杉「あのお客さん、銀座のゴッドマザー(諏訪早苗)じゃ?」と三橋に。
溜「ゴットマザーって?」杉山に聞く。
杉「伝説の女バーテンダーで銀座で『テネシーワルツ』って店をやっててこの業界で知らぬ者はいない、まさしく裏ボスってやつだ
溜「あの方が?」

あの三橋が緊張してミスをしている。
杉「ヘルプに行って来い!」と杉山に押される。
溜「いらっしゃいませ!」
早「新人?」
溜「よろしくお願いします」とタオルを手渡す。
早「じゃあ、坊やに何か作ってもらおうかな
溜「坊や…」
早「ジンフィズを
溜「かしこまりました」
棚にジンを取りに行った時、三橋と杉山が詰め寄ってきて、
三「全力で頼むな」
杉「下手なカクテルを出したらボロクソに言われるぞ。三橋さんも新人の頃に扱下ろされて未だにトラウマだって…ですよね?」
三「心に傷を負って再起不能になったバーテンダーも数多くいるという話だ。佐々倉君だって例外じゃないぞ」
溜「そんな」

Bar501
溜「ジンフィズです」早苗の前に置いた。
早「うん、なかなかだ! 悪くはない合格! Bプラスってとこかな?」
溜「Bプラス」
三「それで十分だ!」
杉「今日だけは褒めてやる!」
早「坊や、名前は?」
溜「佐々倉と言います」
早苗の表情が強張っている。そこに美和とマリが現れる。

早「ここ座れば? 開いてるわよ、マリ」
溜「お知り合いなんですか?」
早「知り合いも何も、親子よ」
マ「いちいち大きな声で言わないで」
早「あらいいじゃない、別に隠すことでもあるまいし。日本に戻って来てても、親に連絡もなしか」
マ「そんな必要ない」
早「相変わらず、薄情な女だね、お前は。まぁ、それはそうとマリ、今日のピアノ。何なのアレ」
マ「ラウンジに来たの?」
早「全然なってないよ! ガチガチに力が入って、見てるこっちの方が緊張するよ、ニューヨークまで行って何やってたんだよ!・・ああそうか、結局モノにならずに逃げて帰って来た訳か」
マ「そんな事、あなたに言われたくないから!」
早「坊や、この娘に、そうね、テイクファイブでも飲ませてやって」
溜「テイクファイブ
マ「そんなの飲みたくない!」
早「あらあら、いい歳してまだ反抗期ってとこ?」
マ「あなたにお任せします」
そんな溜は「どうぞ、テネシーワルツです」とマリに差し出す。
マ「テネシーワルツ?」
溜「経営されているお店の名前とお伺いしまして、最近ではあんまり飲まれないカクテルですが、お客様もピアニストという事で名曲にちなんだ…」
マリが溜にグラスの酒をぶっかける。
マ「いい加減にして! 2人で私をからかおうってワケ?」
溜「あの、お客様」
マ「私、バーテンダーなんて大嫌いだから!」と店を出る。
杉「ドラマみたいだぁ」
早「バカ娘が! ごめんなさいね。ちょっとチョイスがまずかったかも。うん、だけど味は悪くない(早苗にもテネシーを出してたんだね)。Aプラスあげるよ。今度私がご馳走する」とクリーニング代も追いて帰った行った。

翌朝、自宅の屋形船で洗濯物を干してると美和が訪ねて来る。マリと一緒に。
溜「ホットワインです」と2人にご馳走。謝りに来たのだ。
溜「どうぞ、飲んで下さい、あったまりますよ」
マ「言い訳ってわけじゃないんだけど、私と昨日お店に居たあの人、本当の親子じゃないんです。父もピアニストで、私と母を養うために、あの人の店で演奏している内にその・・・出来ちゃったんです、私が小学校にあがる頃、で、離婚。あの人と母は親友だったのに」
美「本当のお母さんは?」
マ「別れてからは一度も、父も私が中学校の頃、亡くなったから、それ以来ずっとあの人と2人で仕方なく私を育てたから、やっぱりあの人も私の事気に入らないみたいで、細かい事でもすぐ注意して色々厳しく当たられてきたの。だから私もつい…こんな事3年前のインタビューじゃ言わなかったよね?(美和に)今はいくつだっけ?」
美「23です」
マ「じゃあ、まだまだこれからって感じだよね、きっと、私は29だから、なんかもう焦っちゃって」
美「そうなんですか?」
マ「(頷いて)自分にはまだいくらでも可能性があるって思ってたけど、最近どんどん現実突き付けられて、音楽でも成功しない、結婚するような相手もいない。自分はいったい何なんだろうって」寂しい横顔。
溜「もしよろしければまたラパンに来て下さい。音楽の事は良く分かりませんが、色々なお酒を楽しめると思うので」
マ「ありがとう。これもとっても美味しい」
「御馳走様でした」とマリは帰って行った。

3年前に聞いたピアノと今のピアノの音が違うという美和に、
へぇーそんな繊細な耳持っていたんだ」と余計な事をいう溜。

ラウンジでいつものようにピアノを弾くマリ。
弾き終わり客の様子を見て、誰一人演奏を聴いてる者がいない空しさを感じてしまう。

早苗の『テネシーワルツ』へ向かう佐々倉。
早「さっそく来たね」
溜「勉強させて頂きます」
早「どうぞ」(ジンフィズか)
溜「頂きます、さすがです。僕のなんかより全然コクがある。これシガーシロップですか? なるほどだからコクがあるんだ」
早「昨日は悪かったわね、うちの娘が。ちょっと色々ある親子で」
溜「いいえ、親子関係って難しいですよね? 近すぎても駄目だし、遠すぎてもきっと。あぁ、一般論ですけど」
早「坊や、佐々倉先生のとこの息子だろ!」固まる溜。
早「面白いじゃないか、永田町の妖怪って言われた政治家の先生の息子がバーテンダーやってるなんて
溜「父をご存じだったんですか?」
早「うん、ウチの常連だったのよ。いつもね、今あんたが座ってるそこに座ってた。お気に入りはオールドパー」と目の前に出す。
溜「政治家は自分を裏切ったものを決して許さない・・・っていうのが父の口癖でした。でもきっと、そんな執念深さと冷酷さがないと政治の世界ではやっていけなったんだと思います」
早「自分を裏切ったもの・・・」

父と回想シーン――*
父「バーテンダーになりたい?」
溜「はい。だから大学には行きません」
父「溜、人間には二つの種類がある。人に酒を注ぐ者、それを飲む者。どちらが勝者か言うまでもないだろう」
溜「それは父さんの考え方です」
父「全く理解が出来ない。お前はワシの後を継ぐ信じていた」――*

ニューウェーブJAZZアーティストオーディション会場
マリも受けていた。
テクニックはあるけど余裕ゼロと判断される。ミスも多く絶望的。

ホテルのラウンジでいつものようにピアノを弾き終え、一息つくと早苗の後姿を見つけ、追いかるマリ。
マ「私の事を笑いに来たの? 暇人」
早「今日も全然だめ。この前よりひどいくらい。お前楽しい?」
マ「ほっといてよ! 私とあなたは他人なんだから」
早「他人? 他人かぁ。随分な言いようだこと」
マ「違う? 私の事仕方なく育てたってだけでしょ? それも結局あなたがお母さんを追い出したから。子供の頃からうんざりだった。馬鹿みたいに私に厳しくてちょっとピアノの練習サボったぐらいで散々怒鳴って私の事ストレス解消にしてただけなんじゃないの?」
早「つまんない事言ってんじゃないよ、お前昔から何の成長も無いね、自分が出来ない…」
マ「そういうのが一番鬱陶しいの! 母親づらしないでよ! あなたとお父さんが結婚したのは事実。でも私はあなたの事一度も母親だと思った事ない! もう二度と来ないで!」

ラパン――*
美和の隣の席で悪酔いしてるマリ。ピアノをやめようとまで考えてるようだ。
この間、早苗が勧めた酒を作ろうとする佐々倉。
他のにしてくれと言ったのだが、目の前で作り始める。
溜「どうぞ」と差し出す。「テイクファイブの意味はご存知ですよね?」
マ「変調の四文の拍子の事でしょ? 有名なジャズの曲名でもあるし」
溜「音楽にちなんだカクテルですから。でも早苗さんがマリさんにお勧めしたのは、もう一つの理由があったかと思います」
マ「もう一つ?」
溜「バーの世界でテイクファイブは「5分間だけ休憩しよう」5分間。つまりショートカクテルを飲む時間です」
マ「何が言いたいんです?」
りゅ「丈夫なピアノ線だってずっと張りっ放しでは音も狂うし、切れる事だってある。時には心を緩めてあげる事、リラックスする事も大事だという事を早苗さんは伝えたかったんじゃないでしょうか?
マ「買被り過ぎですよ。あの人はそんな人じゃない」
溜「先日お客様がカウンターに座って、早苗さんと向き合っていましたよね? バーにはこんなルールもあります。バーでは隣の人と話す時も前を向け、そうすれば気持ちも言葉もぶつからずに済みますから、けど同時にこうも思います。気持ちがあるからこそぶつかったんだって。お互いを想う気持ちがなければ衝突のしようもありませんから……とか言ったらちょっと気取り過ぎですか?」
三「早苗さんは昔からとても厳しい方ですから、他人にもご自分にも」
マ「あの人の事知ってるんですか?」
三「若い頃、散々しごかれましたので」

帰り道、早苗に電話しようか迷うマリ、だが決心がつかずに止めてしまう。

自宅(笑)でのんびり釣りをする佐々倉。
いきなり背後から押さえつけられる。早苗だった。
体調の悪い自分に代わってピンチヒッターをしてくれと。
三橋には了解を得ていると言われ、仕方なくテネシーワルツで働く溜。
父の好きだったオールドパーを手に考え事。
早「手、止まってるよ」
父親の話をしてしまった事を謝ってきた。
溜は父親の死に目に会えなかった事を話し始める。
父が倒れたという連絡をもらっても、素直に病院に行けなかったのだという。
溜「親の期待裏切った、不肖の息子ですから。とはいっても昔の話なんで別に引きずってる訳じゃないんですけど
早「なるほど、そういう事か。でも、まぁ、あんたはプロだ。カウンターの中にいる限り、そんな暗い顔してちゃダメだよ」
溜「もちろんです」
早「バーテンダーの仕事はさぁ、お客の不幸や孤独をそっと見守ってあげる事だって私は思ってる」
溜「不幸や孤独…」
早「なのに、そのバーテンダーが湿気た面してちゃ、洒落になんないでしょ」
溜「じゃあ、バーテンダーが不幸な時はどうすればいいですか?
早「え? あはは。それはね1人でこうじっと耐えるしかないのよ、それが出来ないんだったらバーテンダーなんか辞めちまえって話」
溜「覚えておきます」店にテネシーワルツが流れる。溜「テネシーワルツ…名曲ですね? そう言えば、どうしてここのお店、テネシーワルツって名前になったんですか?」
早「私が付けた訳じゃないのよ、マリの父と籍を入れた時に彼がそうしようって言い出したの。私気に入ってんの! 私の生き方にピッタシだし」
溜「生き方…? っていう事はもしかして?」

マリ、ラウンジでピアノを引きながら溜の言葉を思い出す。
テイクファイブというカクテルを通しての早苗の言葉・・・・。
深呼吸し、急に曲を変更し『テイクファイブ』を弾き始める。
そこへオーディションの時にいた審査員が偶然にやって来る。
別人のように弾いているマリの演奏に耳を傾けた。
その演奏に1組の客から拍手が起きた。
嬉しくてその客達に笑顔で会釈。
「演奏良かったよ」と偶然居合わせた男は名刺を渡す。
彼女の名前を聞いて早苗の娘という事を思い出す。
早苗の店の常連客だったようだ。

「しっかり親孝行してあげなよ、一番苦労したのは早苗さんなんだからと」言う言葉を聞く。

ラパンに早苗の事を聞かせてくれと血相変えてやって来たマリ。
そんなマリに、溜は「戦後初めて日本で生まれたオリジナルカクテル、テネシーワルツです。甘いカクテルなので落ち着きますよ」と差し出した。
マ「美味しい。缶入りのドロップみたいな味」
溜「名曲テネシーワルツはご存知ですよね? 1948年に作られたアメリカの曲で2年後に発売されたカバー曲は世界的なミリオンセラーになりました。バーテンダーはお客様について語らないと言うのがルールです。けれど、早苗さんが自分を重ね合わせたテネシーワルツの歌詞の意味を考えて頂く事位は許されるんじゃないでしょうか?」
マ「テネシーワルツ…歌詞?・・・私がダンスパーティで恋人とテネシーワルツを踊っていた そこに懐かしい友達が訪ねてきた 友達が私の恋人をダンスに誘い 心まで奪って去って行った だからあの晩のテネシーワルツは忘れられない・・・歌の主人公は早苗さんなの? つまり、お父さんと早苗さんは元々恋人同士だった、でもお父さんは私の本当のお母さんが奪って行った。なのに、お母さんは私を置いて出て行った。そしてその後、わたしをずっと早苗さんが育ててくれた…」
三橋「私はそう聞いてます」
マ「そんな…、知らないのは私だけだったんだ。早苗さんは…私の事なんか好きじゃないと思っていた。だからいつも」
(口うるさく厳しい早苗の姿を思い出している)
三「昔から口うるさいのはマリさんを立派に育てようとする、早苗さんの愛情に他ならないと思います」
マ「けど、どうして早苗さんは私には何も言わなかったの? 散々文句を言う娘に」
溜「早苗さん言ってました。バーテンダーが不幸な時は一人で耐えるんだって」
マ「じゃあ、早苗さんは私を育てながら、ずっと一人で耐えてたって言うの?」
溜「でも僕は違うと思います。早苗さんはあなたがいるから頑張れた。銀座のゴットマザーは決して不幸なんかじゃない

そこにマリの携帯が鳴った。早苗が病院に運ばれたという連絡だった。
躊躇してるマリに溜「そんな事はどうでもいい! 早く!」と声を荒げた「今行かないと絶対後悔する。ずっと引きずって生きていくつもりですか? 早く行ってください!」それでも悩んでるマリの手を引いて外へ連れ出す溜。
美和も一緒に病院へ。

病院到着すると、ロビーに早苗の姿が。
溜「早苗さん!」声を掛けられ振り返り、3人の姿を見てビックリする。
目眩がして階段から落ちて足に怪我をしたという。
ただの捻挫だという。一人で椅子から立ち上がろうとした時、母に手を貸す娘。
早「どうしたんだい? この子」と面喰っている。

肩を組みながら帰る母娘。
マ「あの店で時々ピアノ弾いてもイイ?」
早「ギャラは出ないよ」
マ「期待してない…ありがとう、お母さん
初めての「母さん」に早苗は内心喜んでいる。

美「あの二人見てたらなんか嬉しくなっちゃった」
溜「ね、ずっと雨が降ってたけど、ようやく晴れてその分しっかり地面が固まったというか」
美「何か俺、カッコイイ事言ったと思ってない?」
溜「思ってないよ」
美「ホント? ねぇ、佐々倉さんて……やっぱり何でもない」
言いかけた言葉を飲み込んだ。
溜「でも良かった。親子の間には笑顔があった方が絶対いいから

早苗がラパンのボックス席の方で溜に近況報告している。
マリは毎週土曜日にミニライブをしてるらしい。
早「時間があったら来て頂戴」
溜「ぜひ、美人親子に会い行きます」
早苗はマリの母親に感謝しているのだという。自分とマリを引き合わせてくれたからと。
早「ねぇ、あんたのお父さん言ってたわよ。もしもあんたがバーテンダーになったとしたら、その時にはその酒を飲んでみたいって」
溜「それはバーテンダーの優しい嘘ですか?
早「疑い深い男ね」
溜「でも僕の中の父親はそんな事言う人じゃなかったもので」
早「あんた、子供のころ、ビール注ぐの凄く上手かったんだって? 子供のくせに泡の配分が絶妙で政治の世界でどんなに嫌な事があっても、息子が注いでくれたビールを飲めば全部吹っ飛んだって。お父さん言ってたわよ

父との子供の頃のシーン――*
父「あぁ、美味い! 美味いぞ!」と頭をなでる父親の姿――*

溜「どうぞ」
ラパンで父に好きなオールドパーを飲ませてる(妄想なのか)
一口飲んだ父の笑顔が、溜も嬉しくて笑う。
再び目をやるとカウンター席には父はいなかった。

切ない終わり方だったなぁ〜〜。